『結城姉妹(仮)』2-1

あれからしばらく経った、ある年の12月。
結城姉妹3人は一応平穏無事に過ごしていた。奈恵は余暇を取らずに仕事や家事へ打ち込み、その姿に悠衣と沙那は身を案じていた。


ある日の15時過ぎ、悠衣は準備を整えて奈恵を呼び出した。
奈恵は家事向けのロングスカートメイド服を着ていた。


「どうした?おやつなら今作るところだが、何か急用か?」
「奈恵、明日から一週間予定空けたわ」
「む、仕事入らなかったのか?」
「入れなかったのよ。あなた、今日まで何連勤してると思ってるの?」
「13日目だが」
「それを1日休みで何回目?」
「忘れた。ずっとこの調子だからな」
「それは合間に休んでるとは言えないわよ?」
「そうか?無理しているつもりは無いのだが」
「そう?診断機で診てみる?」
「‥‥悠衣、私に休めと言いたいのか?」
「ええ。あなたは大事な家族。気を遣うのは当然よ。仕事人間の気質なのは分かるけど、体を壊したらそれこそ沙那も悲しむわ‥‥」
「分かった分かった!ありがたく休ませて貰おう」
「良かった」


奈恵は悠衣の押しに参り休暇を受けた。
しかし、ただでは引き下がらなかった。


「ただし」
「?」
「悠衣も沙那も休め。デスクワークメインとは言え、休んで無いだろう」
「私は依頼や取引などがあるから1日オフにはできないけど、その代わり常日頃から小休止を頻繁に入れてるわ。沙那はハマりだしたらガッツリ集中してやり込むから、それが続くと一気に体調崩すけど、今のところ休んでる時間を良く作ってて大丈夫と言ってたから。診断機でも特に異常は示さなかったし」
「悠衣」
「何?」
「ちょっとは陽向で過ごせ」
「あら」
「小休止云々以前に陽の光を浴びてないだろう?ここずっと外回りは買い物含めて私しか出てないからな」
「‥‥ふふ」
「悠衣こそ体に気を遣って‥‥悠衣?」


奈恵が話す中で悠衣はゆっくり立ち上がり、奈恵にそっと抱きついた。身長差があるので悠衣の頭が奈恵の胸辺りにきているが。


「ありがとう。奈恵は温かいわね」
「そんな事はない。最近は仕事の話しかしなかっただろう?」
「その分私たちの為に働いてたでしょう?沙那もそれを分かってるから依頼量減らす様になったんじゃない。奈恵が無理しない様にって」
「む、軽い仕事の割合が増えたと思ったら。しかし、そんなに心配かけていたとは」


話が止まる。
ここで悠衣はボソッと打ち明けた。


「奈恵‥‥」
「む?」
「新しい子を入れたいわ」
「‥‥私では不満か?」
「そうじゃない。奈恵一人に私と沙那の護衛は大変でしょう。それは前に奈恵も感じたでしょう?」
「む‥‥むう」
「だからね、無理しない程度には人が欲しいかなって」
「むう‥‥」


悠衣が人を欲しがる事はつまり、沙那の様な孤児を新たに養子縁組するという事。
孤児を引き入れる時には悠衣が身体適性を測り、孤児と良い関係を作れるまで通い詰め、孤児院に交渉し、役所のデータを変更、そして実際に引き取る流れである。
軍人華族出身の奈恵は英才教育によって早くから自我を持ち、悠衣の交渉に自ら名乗り出た為、すぐに孤児院を出る事になったが、沙那の場合は良い関係を築くのに悠衣と奈恵2人掛かりで結構な月日を費やした。
それをまた‥‥となると、悠衣や沙那が精神的に参るのではないか‥‥。奈恵はそんな不安を覚えたのだった。


「悠衣」
「なに?」
「次の子と関係を築くのは私に任せて欲しい」
「な〜に?独り占めするつもり?」
「そうではない。これに悠衣と沙那が付き合う必要は無いだろう」
「やっぱり独り占めよ。でも‥‥ふぅ」


悠衣は少し俯いて溜め息をついた。


「沙那の時大変だったのは事実よ。しばらく仕事も受けられなかったし。本来は私が全部しないといけない事なのに」
「そこまで思い詰める必要はない。今は私や沙那がいる。分担できるんだ」
「奈恵‥‥」
「明日からみんなで探してみるか。息抜きに」
「奈恵、それは息抜きにならないわよ」
「私は息抜きになる」
「もう‥‥ありがとう」


抱き締め合う悠衣と奈恵。
姉妹以上の何かはありそうだ。