小説

『結城姉妹(仮)』2-8

「さて」 悠衣は会話が一区切りしたと感じて切り上げさせた。 「智亜希‥‥、あなたには家族になったら亜由という名前をあげたいと思います」 「亜由‥‥」 「名前を呼ぶ度に僅かながら堅くなっていましたね。嫌悪感やつらい思いをずっとしてきたのではないのか…

『結城姉妹(仮)』2-7

真帆は会ったその日のうちに悠衣たちが連れて帰る事になった。 「広い‥‥」 「ようこそ、我が居城へ‥‥とでも言えばいいのかしら」 「ゆーちゃん、それ、どこのアレよ‥‥」 「ふふ」 真帆が感嘆とする中、悠衣は自宅兼研究所の各部屋を案内。 そのうち空き部屋…

『結城姉妹(仮)』2-6

その後、沙那から警察に情報提供した事で養父逮捕となった。 養父は実のところ智亜希の母とは入籍しておらず、何かと貢がせていたそうだ。 凶器は沢に捨てられたのを発見、余罪追求しつつも殺人として立件と相成った。 智亜希は独りとなった事で孤児院に入れ…

『結城姉妹(仮)』2-5

「‥‥と、私はそんな経緯(いきさつ)で悠衣と暮らしているのだ」 奈恵は家族の事はぼかしながらも、悠衣に引き取られるまでの事を打ち明けた。 「じゃあ、奈恵さんは孤児‥‥?」 「そういう事だな」 「私もだよー」 「沙那さんも!?」 「言ってしまえば、私…

『結城姉妹(仮)』2-4

あれから5日経ち、適性の子は見つからず、しかし姉妹は楽しく過ごしていた。 そして迎えた休みの最終日。 奈恵は沙那が受けた仕事の打ち合わせの為に午前中だけ一人で外出した。もちろんメイド服である。 打ち合わせは滞りなく進み、双方納得のいく形で終了…

『結城姉妹(仮)』2-3

ミサに案内され悠衣たちは庭へやってきた。その間に名前だけはお互い紹介している。 「この白い髪の子がユイ、青い髪の子がナエ、茶髪の子がサナよ」 「皆さんよろしくお願いします」 「よろしく」 「よろしくねー」 一礼。 「ユイは大人しいけど怒らせちゃ…

『結城姉妹(仮)』2-2

翌日、予定通り休暇となった奈恵と休みを入れた悠衣と沙那は揃って外出する事になった。 悠衣は流石に白衣を脱ぎ、沙那とお揃いのブレザー(スカートは膝下丈)に厚手のコートを着ていた。沙那はスカートが膝上丈で黒タイツ以外悠衣と揃えている。 奈恵は‥‥…

『結城姉妹(仮)』2-1

あれからしばらく経った、ある年の12月。 結城姉妹3人は一応平穏無事に過ごしていた。奈恵は余暇を取らずに仕事や家事へ打ち込み、その姿に悠衣と沙那は身を案じていた。 ある日の15時過ぎ、悠衣は準備を整えて奈恵を呼び出した。 奈恵は家事向けのロングス…

『結城姉妹(仮)』1-6

生後間もない赤ちゃんを管理する一室。沙那は扉を閉めて静かに寄りかかっていた。『始まったか‥‥。こっちもそろそろ』沙那はいつもの端末を仕舞い、両手をフリーにして神経を集中した。淡く発光する右手。沙那が施術で手に入れた魔法に似た不思議な力。『‥‥…

『結城姉妹(仮)』1-5

病院の一室。 女性がベッドで寝息をたてている。 傍らでは奈恵と悠衣が椅子に座って見守る。「無事に産まれて何よりだな」 「そうね。母子共にまだ予断は許さないけど」 「大丈夫だ。私が居る」 「ふふ、頼れる背中ね」悠衣は目を閉じて奈恵に寄りかかる。「…

『結城姉妹(仮)』1-4

『現場』では側近が指示を出して警官と処理を進めている。 悠衣は側近に一礼して離れると、真っ直ぐ沙那の下へ戻った。「おかえりゆーちゃん」 「任務完了よ。奈恵の方はどう?」 「うん、終わった。ターゲットの妹さんと赤ちゃんを保護する事になりそう」 …

『結城姉妹(仮)』1-3

騒然となる現場。「3発当たった!誰だ!」すぐに警備が現れ射撃犯を特定し捕まえる。現地の者だった。 悠衣は警備に紛れて撃たれた彼の傍らに来る。「‥‥議長、あなたの命はもう長くはありません。この国は植民化が続くでしょう」 「だろうな。私が居なくなれ…

『結城姉妹(仮)』1-2

ここはとある雑木林。 この一帯は明るく穏やかであった。 そこに、突如人の気配が現れる。1‥‥、2‥‥、3。その姿はこの時代と風土とは一応一線を画すが、余り気に留めない程度には流す事のできる服装であった。 悠衣・奈恵・沙那の3人である。 沙那が端末で何…

『結城姉妹(仮)』1-1

『ふむ‥‥』真っ白な広い空間を大小様々な電子機械が所狭しと溢れる部屋。 そんな部屋の片隅でコンピュータ端末に向かいキーボード叩く、白髪で白衣を羽織った齢10歳程に見える小さな姿。白衣からは普段着なのか正装なのか、紺色のブレザーが覗かせている。ス…

『結城姉妹(仮)』OP

ここは日本のどこかの山林の奥。空からも隠れる様に黒く草臥れた木造の小さな家屋が建っていた。 しかしながら、それは仮初めの姿。 実際には精巧で大きな建物が外壁を土嚢で覆い被されており、その外壁はあらゆる視覚を遮る強固な防壁として、建てられた時…