『結城姉妹(仮)』2-5

「‥‥と、私はそんな経緯(いきさつ)で悠衣と暮らしているのだ」
奈恵は家族の事はぼかしながらも、悠衣に引き取られるまでの事を打ち明けた。
「じゃあ、奈恵さんは孤児‥‥?」
「そういう事だな」
「私もだよー」
「沙那さんも!?」
「言ってしまえば、私もかしら」
「悠衣さんも‥‥って、それじゃ‥‥」
「私は結城家に引き取られ、全てが始まった‥‥聡明なあなたにはこれで十分かしら」
「‥‥‥‥‥‥」
智亜希は黙り込んで悠衣たちを代わる代わる見つめた。
悠衣は姉妹とは言わなかった。しかし、悠衣の言葉から養子として集められたと仮定する事ができた。そして、自身に接触してきた理由も予想できた。


智亜希はしばらく逡巡した後、心を決めて打ち明ける事にした。
「父は既に居ない。母も亡くした。未練は無いわ」
「え、居ない?」
「母と暮らしていたのは養父、再婚相手よ。去年来たわ。実の父は私が産まれた時には既にこの世の者では無かった。交通事故で」
「そうか‥‥」
「できるなら、私も‥‥」
「待ちなさい」
「!?」
「ゆーちゃん!?」
智亜希が締めに言いかけたところで悠衣が止めた。智亜希や沙那は驚いてしまった。奈恵はただ黙っていた。
「あなたにはまだ早いわ」
「早いって何!?今を逃したら一生‥‥」
「まあ待て。落ち着け」
「奈恵さん‥‥?」
ここで奈恵は悠衣にアイコンタクトだけで同意を求めた。
悠衣は少し躊躇いつつも頷いた。
「智亜希、私らは幾つに見える?」
なえなえ?」
「沙那、いいのよ。ここは奈恵に任せてあげなさい」
「ゆーちゃん‥‥うん」
沙那を押し留めたところで奈恵は言を継げた。
「もう一度言う。智亜希、私らは幾つに見える?」
「‥‥10歳」
「そうだな。見た目は大体それくらいだろう。では、姿以外では幾つに“思える”?」
「‥‥!?」
智亜希は“思える”と言い換えたところに別の意図を感じて言葉を失った。
“見える”ではなく“思える”‥‥。
智亜希は神経を研ぎ澄まして3人を見比べた。


しばらくして、智亜希は結論を出した。
「まず失礼だと思うのでごめんなさいとだけ。沙那さんは一応成人してる。奈恵さんは沙那さんより大分歳を重ねてて50は過ぎてるでしょうね。そして悠衣さんは奈恵さんより更に長い年月を独りで過ごした様な‥‥白く脱色してるのがなんとなく気になって‥‥」
「‥‥おめでとう、正解よ。まあ、私の髪は処置した時のだけど」
悠衣は予想以上の答えに感動して智亜希の頭を撫でた。
「私たちは施術によって不老の身となったわ。でも施術は5歳にするのこれの意味は分かるわね?」
「‥‥うん」
「奈恵も沙那も孤児院や教会で他人と触れ合う試み(経験)を積んできてるわ。智亜希さんもひとまず他者にまみれて過ごしてみなさい。そこで得るものがきっとあるはずだから」
「‥‥うん」
「心配するな。ちゃんと迎えに行く」
「そうそう!ゆーちゃんは約束守るから心配ナッシン!」
「‥‥ありがとう」
智亜希のちゃんとした笑顔。悠衣はそれを確認して心底安心した。


あれから悠衣はメモを一つ書き置くと、智亜希に別れを告げ、奈恵や沙那と共に病室を出て行った。
これが、後の亜由(あゆ)との出会いだった。