『結城姉妹(仮)』2-6

その後、沙那から警察に情報提供した事で養父逮捕となった。
養父は実のところ智亜希の母とは入籍しておらず、何かと貢がせていたそうだ。
凶器は沢に捨てられたのを発見、余罪追求しつつも殺人として立件と相成った。
智亜希は独りとなった事で孤児院に入れられる事になったが、これは悠衣が口利きをしたとある場所にして貰ったという。


さて、悠衣たちはあの後別の施設へ寄った訳だが、ここでも適性の子を見つける事になった。
後の結城姉妹四女、真帆である。
ちなみに真帆は養子となる際に改名を固辞している。


話を戻そう。
真帆は悠衣たちが訪ねてきた時、子供たちの喧騒から少し離れて独り壁に寄りかかっていた。
悠衣は真帆にそれなりの適性と共に言い知れぬ不安定感を覚えた。奈恵は鋭く察知した。
「悠衣」
「奈恵」
「無理するな」
「無理して無いわ」
「見え透いた嘘をついてどうする。ここは私に任せろ」
「‥‥ありがとう」
結局、奈恵が悠衣に代わり接触を試みる事にした。


「横、良いか?」
「‥‥ええ」
奈恵の問いかけに真帆は気にしない素振りでぶっきらぼうに答えた。
「混ざらないのか?」
「ええ」
「皆と一緒は嫌か?」
「ええ」
「独りで楽しいか?」
「‥‥何が言いたいの?」
「母親はどうした?」
「そこで車に引かれて死んだわ」
真帆は門の沿いにある歩道を指差した。
「父親は?」
「‥‥あんな奴父親じゃない」
「ふむ、つまり真帆は父親が憎いと」
「ええ、そうよ!憎いし怖いわよ!捕まったそうだけど、いつまたあたしを捕まえて憂さ晴らしの道具にされるか分からないのよ!」
「そうか」
「ただの暴力ならまだマシ!抵抗できない事をいいことにナカに出されたりして、あたしは‥‥!?」
途中から興奮して泣き叫び出す真帆を、奈恵は聞きながらもそっと抱きしめた。
「真帆」
「うああああ!」
そして真帆は奈恵の胸の中で泣いた。
これには様子を見ていた悠衣や沙那の心に酷くショックを与えた。
「そんなのって‥‥」
「真帆‥‥」


しばらくして泣き止んだ真帆は少し安らぎを覚えた。
「温かい‥‥」
「落ち着いたか?」
「うん」
「よしよし、いい子だ」
奈恵は真帆の頭を撫でて心を落ち着かせてやる。
「でも、どうしてここまで打ち明けられたんだろう‥‥。もう他人とは相容れないと思ってたのに‥‥」
「さあな。だが、私にそうしてくれた事はとても嬉しいぞ」
「あの、あなたは‥‥」
「奈恵。結城奈恵だ」
「奈恵‥‥もう少しだけ、そばにいて‥‥」
「ああ。気の済むまでこうしているといい」
「ありがとう‥‥」
奈恵の体温を噛み締める真帆。
そんな真帆に奈恵は自然と穏やかな笑みを漏らす。
沙那をあやす時も、智亜希を宥める時も、そして、悠衣の悲しみを受け止める時も。
奈恵はいつしか優しさを心に宿していたのだ。
と、ここで奈恵は悠衣と沙那に手招きする。
「真帆、少し良いか?」
「うん‥‥?」
「私の姉悠衣と妹沙那だ」
「え‥‥」
「悠衣よ」
「沙那だよ」
「あ‥‥真帆です」
「真帆、ひとつ頼んで良いかしら」
「何‥‥?」
「私たちの妹にならない?」
「え‥‥?」
「こう言った方が良いかしら。奈恵の妹にならない?」
「奈恵の‥‥妹?」
「ああ。真帆の事を見てると気になってな。もっと近くで守ってやりたい」
「奈恵‥‥いいの?あたしは父親に汚された身。もし学校に行っても‥‥」
「その心配は無用よ。うちに来れば学校には行かなくていいのよ。人並みの勉強ならうちに資料は揃ってる。何なら私が教えてもいいわ」
「悠衣‥‥さん」
「服とかは私がどうにかするわよ。ご飯はなえなえが作るし」
「え!?」
「ああ、家事はほとんど私がしているからな」
「あの、まだ学生だよね!?」
「実はな、私らは10歳辺りから身体年齢は変わってないのだ」
「え!?」
「5歳辺りでとある処置をするのだが、それの副作用というか本作用というか」
「一応副作用扱いよ。あれでも使い方さえ守ればちゃんと効果はあるんだから。私達3人がその証拠でしょう?」
「そうそう、失敗も無いし!」
「じゃあ、奈恵たちは‥‥」
「沙那はそんなでも無いが、私や悠衣は結構な歳だな。というか悠衣は‥‥」
バシン
「はい、そこまで」
沙那はバインダーで奈恵の後頭部を叩いた。まあ、背が違うから仕方ない。
「スマン」
「まあ、そういう訳よ。まほまほも来るなら処置は受ける事になるけど、痛いとかそういうもんじゃないから安心して」
「まほ‥‥まほ‥‥」
「嫌だった?ゆーちゃん、なえなえ、私、まほまほ!まほまほはなえなえが好きみたいだから同じ様なあだ名にしたんだけど」
「奈恵と同じ様に‥‥」
「まほまほって惚れっぽいのかな」
「え‥‥あ‥‥」
「ふふ、それじゃ、今日にでも手続きして来て貰いましょうか」
「あの‥‥よろしくお願いします?」
「ええ、よろしく」
そんなこんなでとんとん拍子に真帆が悠衣たちの新たな家族となった。
奈恵の温かさに安心した真帆。そんな真帆はこの先どう心を強くしていくのだろう。
悠衣はそんな思いを巡らせながら、沙那と手続きを進めるのであった。