『結城姉妹(仮)』2-4

あれから5日経ち、適性の子は見つからず、しかし姉妹は楽しく過ごしていた。
そして迎えた休みの最終日。


奈恵は沙那が受けた仕事の打ち合わせの為に午前中だけ一人で外出した。もちろんメイド服である。
打ち合わせは滞りなく進み、双方納得のいく形で終了した。
先方と別れた後買い物に立ち寄り、途中まで歩いて行く事にしたのだが。
『‥‥人の血の匂い。しかも大量だな。近くに(病院等の)それらしい建物は無いし。行ってみるか』
道すがら、殺伐とした気配を感じ、一路その方向へ気配を消しつつ向かった。


とあるマンションの一室。奈恵は慎重に歩を進める。中からは気配が1つ。そして大量の血の匂い。
荷を下ろし、ドアノブに手をかける。手袋を履いているので面倒な事にはならない。
音も無く扉を開ける‥‥。


「‥‥‥‥‥‥‥‥」
惨憺たる現場だった。
女性が胸部を刺され倒れており、側にパジャマ姿の女の子が一人女の子座り状態で、部屋から居間に出てくる辺りにてピクリとも動いて無かった。女性は既に息が無く、女の子は気を失っていた。
『殺人事件か‥‥ふむ』
奈恵は小型転送装置で荷物と共に一旦帰ると悠衣に説明した。
「‥‥その子に会わせて」
悠衣は何かを感じたのだろう、白衣のまま準備にかかった。
「沙那、すぐ出かけるから準備して」
『え、はーい』


悠衣たちが現場に来ると、ちょうど警察が現場検証に来ていた。
悠衣は手近な警察を捕まえた。奈恵は警視庁特務機関の手帳を見せる。ちなみに偽造ではなく、実際に奈恵は特務機関に非常勤ながらも所属している。登録自体は沙那による偽造かも知れないが。
「お仕事お疲れ様。どうしたのですか?」
「ん‥‥あ、お疲れ様です!殺人事件の様です。中へ入られますか?」
「ええ。‥‥マンションの一室ですか」
「はい。両親と3歳になる娘の3人で暮らしていた様ですが、このうち母親が刺殺、娘が第一発見者。凶器と父親は行方不明です」
「そう」
現場に到着。悠衣たちは一度手を合わせて殺害された母親の冥福を祈った。
「娘は情緒不安定につき病院で検査中です」
「それは、そうよね‥‥」
現場検証にしばらくお邪魔していたが、ひとまず女の子が入院する病院へ足を運んだ。
「いいかしら」
「‥‥うん」
個室に入れられた女の子は鎮静剤を飲まされたらしくひどく落ち着いていた。X線やCTはこれからの様だが特に問題はなさそうである。
悠衣は女の子を観察した。
『‥‥適性だわ。しかも今までに無い力を秘めている。でも今引き取る訳にはいかないわね‥‥少なくとも後2年は必要だわ』
「刃物は大丈夫か?」
「うん」
「よし、りんごでも剥こうか。‥‥バナナの方が良かったか?」
「ううん」
「分かった」
奈恵は持って来た果物からりんごを取り出し、常備しているサバイバルナイフで上手に剥き始めた。
「あなたたちは‥‥」
「私は悠衣。りんご剥いてるのが奈恵で、そこで端末と向き合ってるのが沙那よ。沙那、手がかりは見つかった?」
「まあね。現在追跡中」
「いつもながら早いわね‥‥」
「ふふん」
「よし、切れたぞ」
奈恵は小皿に10等分したりんごを載せて女の子の横の台に置いた。小さなフォークが一切れに刺さっている。
「‥‥口を開けろ」
「うん?」
女の子がゆっくり口を開けると、奈恵は半分くらいが口に入る様にりんご一切れを持っていく。
「よし、噛め」
シャリッ
一切れの半分を噛み砕いていく女の子。
「旨いか?」
「うん」
「うむ」
頷いた女の子に奈恵は笑みを漏らした。
『智亜希(ちあき)ね‥‥引き取る時には沙那同様に改名させましょう。そうね‥‥亜由なんていいかしら』
悠衣は女の子(智亜希)を見ながら先の事を考えていた‥‥と、ここで気になった事が。
「それにしても、随分落ち着いてるわね」
「鎮静剤打たれたから‥‥(もぐもぐ)」
「それだけかしら」
「‥‥悠衣さん、疑ってるの?」
「違うわ。あなたを見てると奈恵と会った頃を思い出してね」
「え‥‥?」