『結城姉妹(仮)』2-7

真帆は会ったその日のうちに悠衣たちが連れて帰る事になった。
「広い‥‥」
「ようこそ、我が居城へ‥‥とでも言えばいいのかしら」
「ゆーちゃん、それ、どこのアレよ‥‥」
「ふふ」
真帆が感嘆とする中、悠衣は自宅兼研究所の各部屋を案内。
そのうち空き部屋1つを真帆の個室に分け与えた。後に亜由が入る部屋の隣でもある。
「ここが今日から真帆の部屋よ」
「あたしの、部屋‥‥」
部屋は8畳とやや広く、ベッドやデスク等一式も揃っていた。研究所の一室なので無機質感バリバリだが。
「ここを自由に使っていいわ。自分なりに飾ってもいいし」
「悠衣さん‥‥」
「真帆、私たちに対してはもう他人行儀じゃなくて良いのよ。それこそ呼び捨てでもいい。私は常に呼び捨てにしてるけど、真帆が私を呼ぶ時も呼び捨てでも構わないわ」
「悠衣‥‥」
「何かしら?」
「ありがとう‥‥」
「ふふ、どういたしまして」
「まほまほかわいいー」
「可愛い‥‥のかな」
「ああ、可愛い妹だ」
「(ボン)」
「顔真っ赤にしちゃってー。このこのー」
「そんなんじゃ‥‥!」
「私たちは互いに直系的な血縁ではないわ。これだけは言っておきましょう」
「あ、あの‥‥」
「一応案内が終わったから私たちは戻るけど、何かあったら室内の電話を使いなさい。在宅中の誰かは出られるわ。それじゃ、夕食頃に」
真帆に続きを許さず、悠衣は一気に言い切って解散まで持っていった。
「それじゃねー」
「またな。さて、そろそろ夕食を作らないとな」
真帆は部屋に一人残り、しばらくぼーっとしていたが、とりあえずベッドに横たわる事にした。
「結城、真帆‥‥。今日からあたしは‥‥」


翌日より真帆は何かに打ち込みたいと思い発ち、しばらくは人並みの勉学と運動を実践する事にした。
悠衣はその様子を見ながらどんな施術にするか考えていた。
『基礎体力や知識は十分、これといって突出した才能は確認できない。もう少し考える事にしましょう』
真帆の能力開花はまだ先が見えず。
そんなある日、悠衣たちは休みを作って智亜希の過ごす施設へやってきた。
「あ、悠衣!久しぶり!」
正門まできたところでミサが気づいた。そう、ここは連休中最初に向かった丘の上の教会である。
「なんだってー!?」
ミサの一声に子供たちがまたぞろやってきた。智亜希の姿もある。
「奈恵、悠衣、沙那‥‥え?」
智亜希は真帆の姿を見て顔を曇らせた。
ミサも真帆を確認した。こちらは興奮気味だが。
「悠衣、その子は!?」
「真帆よ。さあ、挨拶して」
「真帆‥‥です」
「初々しいねー!さ、入った入ったー!」
ミサは真帆の人見知りっぽい仕草に、更に興奮しつつ正門を開けた。
「真帆、ミサたちと遊んできなさい。少しは他の子と触れ合う余裕ができた筈よ?」
「‥‥うん、行ってくる」
真帆は奈恵を一度見て頷いて駆け出した。
悠衣は真帆を見送ると智亜希の側に来た。智亜希は気になっていた事を聞く事にした。
「悠衣、あの真帆って子は‥‥」
「私が見込んだ5歳になる孤児だった子よ」
「そうじゃない。真帆の父親‥‥」
「父親?」
智亜希の言葉に悠衣たち3人はハッとする。
早速沙那は端末で調べ始めた。そして表情が段々蒼くなる。
「ちょっと待って‥‥え、これって‥‥嘘‥‥!?」
「やっぱり‥‥養父にどこか面影があると思ったら‥‥」
智亜希は複雑な思いの中、ミサに上手く丸め込まれている真帆を眺めた。
「何か因縁ができちゃったわね‥‥ごめんなさい」
「悠衣は悪くない。悪いのはあの養父。真帆の母子と私の母を不幸に陥れた‥‥」
「不幸に陥れられたのは智亜希、あなたもでしょう」
「私は別に‥‥」
「無理は良くないわ。それに、あなたもいずれ私たちの家族になるんだから。甘えていいのよ」
「‥‥ありがとう」
「それにしても、よく一目で分かったね」
「流石は智亜希だな」
「智亜希、あなたは年齢にしてはとても聡明で思い遣りがある。それでお願いだけど‥‥」
「真帆の事でしょう?それくらい考えてるわ」
「ごめんなさい」
「悠衣‥‥姉さん謝らないで‥‥」
「智亜希?」
「家族になるなら、今からお姉さんって呼んだ方がいいかなって」
「ふふ、ありがとう」
「ゆーちゃん照れてるー」
「沙那っ!」
「沙那は呼び捨てにします」
「がーん」
「ふふ」
「後、奈恵姉さん、でいいかな」
「ああ、構わない」
「奈恵お姉さんは私の一番の心の拠り所。悠衣姉さんは他の妹たちを大切にしようと身を粉にしてる節がある。だから、2人は特別」
「ちぇー」
「沙那も何か‥‥私にとってかけがえのない存在になったら敬えるかも」
「そっか‥‥ちょっと頑張ってみる」
「うん、その意気」