『結城姉妹(仮)』2-8

「さて」
悠衣は会話が一区切りしたと感じて切り上げさせた。
「智亜希‥‥、あなたには家族になったら亜由という名前をあげたいと思います」
「亜由‥‥」
「名前を呼ぶ度に僅かながら堅くなっていましたね。嫌悪感やつらい思いをずっとしてきたのではないのかしら?」
「‥‥違うと言えば嘘になる。母の惨状を思い出すから‥‥」
「智亜希‥‥」
「そうね。亜由でいいかも。1文字使ってるから、時々生前の母を思い出せると思うし」
「良かった。実はね、病室であなたに会って名前を知った時からこの名前に決めてたのよ」
「そうなんだ‥‥この名前、悠衣姉さんとの絆の証として大切にする」
「ふふ、ありがとう」
「今日はゆーちゃんデレデレ」
「沙那は一言多いよ。元気なのは良いけど」
なえなえ、智亜希が毒舌です」
「よしよし」
「これだもん」
「ふふ、智亜希も大分会話に慣れてきたのね」
「考えてるからね」
「ねぇ!悠衣たちも一緒に遊ぼー!」
ちょうど良い(?)雰囲気のところでミサが大声で呼んできた。
「あ、ミサが呼んでるー」
「行きましょうか」
「うん」
「ああ」
悠衣たちはミサの呼びかけに応じ、この日はみんなで一緒に楽しんだ。


夕暮れ時。
最初に会った男性(神父さんだった)を交えてお別れ挨拶。
「また来て頂きありがとうございます」
「いいのですよ。真帆にも良い経験になりました。それに、智亜希はいずれ私たちが引き取りますし、私の方こそお世話になっています」
「まあ、どちらにも満足という結果は良いものだ。これからも智亜希を頼む」
「任せなさい!」
「ミサが言うと(ごもごも)」
「そこまでになさい」
珍しく悠衣が沙那を止める。
「私としても少しでもこうした孤児が温かい家庭へ里子になり、幸せな人生を歩んで欲しいので、少しでも助力できれば嬉しい事はありません」
「そう言って頂けると私も嬉しいです。改めて、どうか智亜希をよろしくお願いします」
「はい、分かりました」
「智亜希ちゃん、また、ね‥‥」
「真帆‥‥?ふふ、ええ。また遊びましょう」
最後に真帆から言われ、智亜希は戸惑いつつも少し安心したらしく優しく微笑み返した。


その後、時折3人全員が休む機会を作り、真帆を誘っては智亜希の暮らす丘の上の教会を訪ね、真帆と智亜希は次第に仲間と過ごす楽しさや付き合い方を知り、互いの距離も着実に縮めていった。
同時に真帆自身も体力を高め、悠衣は総合的な身体能力向上と当たりをつけて真帆に処置を施した。
真帆は痛みを伴わない事に改めて驚いたが、いつもに増して体力向上と勉学に励む様になった。


そして、智亜希5歳の誕生日。
智亜希は教会でお祝いを受けた後、悠衣に引き取られ、直後に悠衣から処置を施された。
こうして、結城姉妹は5人姉妹となったのである。