『結城姉妹(仮)』1-3

騒然となる現場。

「3発当たった!誰だ!」

すぐに警備が現れ射撃犯を特定し捕まえる。現地の者だった。
悠衣は警備に紛れて撃たれた彼の傍らに来る。

「‥‥議長、あなたの命はもう長くはありません。この国は植民化が続くでしょう」
「だろうな。私が居なくなれば勢いは止まらぬ。全く、奴は馬鹿な事をしてくれたよ」

彼はそう言い、胸を押さえた。
警官が犯人を彼の前に連行し、その間に側近なども彼の下へ集まり、しかし悠衣はそのまま彼の傍で見守った。
彼は犯人を見て驚いたが、小さく溜め息を漏らした。

「私を撃ったりして、馬鹿な奴だ」
「議長‥‥」

側近らとの会話となり、悠衣は黙って話を聞く事にした‥‥。


‥‥‥‥‥‥。


‥‥‥。


一方の奈恵。
仕事を終えた狙撃犯は戻る準備を始めた。その表情は大物を狩った時の達成感でやや恍惚していたが、一応警戒は解いていなかった。

『闇の住人らしいな。しかし、武器を離しているのは命取りだ』

銃を小さく纏めていたところで、奈恵は頃合いと見て動き出した。
ナイフ片手に気配を消して背後へ回る。
ターゲットは驚いたが既に首元にナイフが突きつけられいる。下手に動くと一瞬で首が飛ぶ。それをさとり、様子を伺いつつも動きを止めた。

「!?」
「お疲れ様」
「誰だ!?」
「告げる名は無い。お主と同じ闇の住人だからな」
「‥‥だが、任務は成功した筈だ。何故‥‥」
「その後のお主の行動がいけなかったのだ」
「その後‥‥だと?」
「ああ。それで私に依頼が来た」
「そうか」

ターゲットは自身で時間移動できる事から逆に想像して理解した様だった。

「しかし、声からして幼い女と思えるが」
「10歳だからな」
「なっ‥‥!?」
「驚く事ではない。闇の住人に年齢や性別は関係無い。そうだろう?」
「あ、ああ‥‥」

自身を暗殺する相手に改めて驚くターゲット。当然である。
いくら長身とは言え、身体年齢は10歳。10歳で暗殺業はターゲットも流石に聞いた事が無かった。
奈恵は優しく話しかける。

「未練は無いか?」
「俺も闇の住人だ。未練なんぞとうの昔に‥‥」
「本当か?事と次第によっては善処するぞ?」
「お前、本当に暗殺者か?」
「まあ、普段は給仕ともつかない仕事受けてるからな。言ってみなさい」
「給仕って‥‥奴隷と違うのか?」
「生憎奴隷制度とは無縁だ。給仕は仕事だ」
「そ、そうか‥‥」

首にナイフを突きつけられたまま、ターゲットは呆れつつも気を改めて話し始めた。

「‥‥妹が交際相手に捨てられてな。妊娠した時に。懐妊しそうな妹に仕送りしてやらなきゃいけないんだ。妹は元々身体が弱く、医療に頼りきり。しかし、今の仕事の報酬の倍は元手が要る。しかも数日中にだ。どうしょうも無い」
「ふむ‥‥」

ここで倍請求の動機が判明した。
もちろん、これは奈恵だけが聞いている訳では無い。


‥‥‥‥‥‥。


‥‥‥。


再び『現場』。

「議長!気を確かに!」
「私は駄目だ。それより、誰か他にやられたか‥‥?」

彼の質問に、側近が状況を説明した。

「そうか‥‥やられたか‥‥」

彼は少し落胆した表情で受け応え、押さえた手が力無く振り下ろされた。
悠衣は彼の胸を押さえ、脈を確認。

「‥‥亡くなったわ」
「そう、か‥‥」

側近が帽子を片手に持ち、悠衣も一緒に彼の死を偲んだ。

そんな中、奈恵から話を聞いていた沙那は端末で調査していた。
内容はターゲットの親戚関係である。

「‥‥ふうん、偽りは無いと。変なところで正直なのね。妹さんは闇の住人でも無いし‥‥。でも、放っとくと色々危険ね。‥‥なえなえ、受理できるわ。妹さんの事」


‥‥‥‥‥‥。


‥‥‥。


「お主の妹の事は私たちが見る。安心しろ」
「何‥‥!?」
「先程妹が調べ上げた。お主の親戚関係など」
「一体お前は‥‥いや、お前たちは‥‥」
「言った筈だ。告げる名は無いと」
「そうだったな。アサシンがわざわざ名を名乗る事は無い」

諦め状態のターゲットに、奈恵は一つ溜め息を漏らした。

「依頼を受けた以上、お主の命は刈り取らなければならない。しかし‥‥」
「なんだ?」
「私に情が無い訳では無い。お主の妹、特に生まれてくる子供の命は保障してあげたい」
「気持ちは嬉しいが、医療費はバカにならない。しかも、場合によっては妹の命も長くは‥‥」
「そこは姉がなんとかできるかも知れない。未来に戻ってからだが」
「‥‥そうか。こう言うのも何だが、妹と子を頼む」
「分かった」

奈恵は前動作も無くナイフでターゲットの首を完全に切り落とした。
そして、ターゲットはその場で力無く倒れた。

奈恵は心の臓にナイフを刺し、それを抜くと、転送装置で死体を依頼書に書かれたとある日時の場所へ転送した。

「仕事完了か。さて戻るか」

そして、痕跡を一切消し、気配も消してその場から離れた。