『結城姉妹(仮)』1-4

『現場』では側近が指示を出して警官と処理を進めている。
悠衣は側近に一礼して離れると、真っ直ぐ沙那の下へ戻った。

「おかえりゆーちゃん」
「任務完了よ。奈恵の方はどう?」
「うん、終わった。ターゲットの妹さんと赤ちゃんを保護する事になりそう」
「そう。母子共に無事に済めば良いけど、依頼主次第ね‥‥」
「そうだね」

悠衣は一通り支度して転送装置を確認した。

「さて、合流場所へ移動しましょう」
「うん」

そして、歩いて『領事館』へ向かった。


‥‥‥‥‥‥。


‥‥‥。


『港町』。
『現場』での出来事からか、警官をちらほら目を光らせている。
奈恵はそれに混じって市場を散策していた。

『妹想いの暗殺者、か。私自身も悠衣に引き取られ、施術を頂いた恩義はある。しかし、私にとってはそこまでだ』

市井の子どもを見ながら、ふと沙那を思い出す。

『しかし、そうもいかなくなった。これも沙那のお陰か‥‥』

沙那を引き取る時、悠衣は勿論だが奈恵にも全幅の信頼を置く沙那に、悠衣も驚いていた。
奈恵は頼られ易い雰囲気を持つと、そこで2人は気づいたのである。
そして、仕事のパートナーレベルだった暗い関係が、沙那に因って愛情も生まれたのである。

なえなえー!」
「ああ」

『領事館前』近くまで来たところで悠衣と沙那の姿を見つけた。
沙那が明るく呼びかけるので、奈恵も顔を綻ばせて返事した。

「無事に済んだ様だな」
「ええ。最期も看取ったし犯人の拘束も確認したわ」
「こちらも無事終了した。後はターゲットの妹の事だが‥‥」
「それは大丈夫。日時と場所は特定したから、戻ってゆーちゃんがエージェントに確認して貰ったらすぐにでも向かえるって」
「そうか。では、ここにはもう用は無いな」
「ええ。裏手で戻りましょう」

『領事館前』の警官に一礼し、裏手に回ったところで転送装置を起動。悠衣たちは瞬時にその場から居なくなった。


‥‥‥‥‥‥。


‥‥‥。


時に、ここは某時欧州某所。
とある一軒家で妊娠中の女性が椅子に座り、お腹をさすりながら本を読んでいた。
女性は小柄で幼さを残しており、一見年端もいかないと思えた。

『お兄ちゃん‥‥』

ゆったりとした雰囲気。それは長く続くと思われた。

「うっ!」

急に強烈な痛みが発する。陣痛である。
女性は救急状態を直通連絡できるボタンを押し、救急搬送を待った。


‥‥‥‥‥‥。


しかし、20分経っても来ない。
それもその筈。数日前、回線が何者かに切断されていたのだ。
このままでは母子共に危険である。

『うう、お兄ちゃん‥‥!』

心の中で叫ぶ。
彼女には唯一の家族である兄。その兄を待つ為に入院せず自宅で待っていた。
兄はずっと行方知らずであったが、定期的に仕送りがあり、時々自宅にも手紙を残していた為、会いたい一心で自宅待機していたのだった。
しかし、身辺に不審な状況が起きているのもあり、兄からの手紙には比較的安全な入院を勧める旨が書かれていたが、兄を待つ為にこれを是とせずにいた。

一方、建物の傍に3人の女の子の姿が現れた。悠衣たちである。

「ここね」
「その様だな‥‥ん?」
「どしたのなえなえ?」
「中の様子がおかしい。緊急事態のようだ。行ってくる」

奈恵は状況判断してすぐさま中へ突撃した。

「奈恵!‥‥仕方ないわね」

悠衣は驚きつつも落ち着いて電話機を操作した。