『結城姉妹(仮)』1-5
病院の一室。
女性がベッドで寝息をたてている。
傍らでは奈恵と悠衣が椅子に座って見守る。
「無事に産まれて何よりだな」
「そうね。母子共にまだ予断は許さないけど」
「大丈夫だ。私が居る」
「ふふ、頼れる背中ね」
悠衣は目を閉じて奈恵に寄りかかる。
「こら、ふざけるな。いくら悠衣でも‥‥」
「何かしら?」
「‥‥勝手にしろ」
「あらら、怒らせてしまったかしら」
「お前は‥‥はぁ」
奈恵は呆れつつも満更ではなさそうで、無意識に笑みが零れた。
「沙那はまだ外か?」
「ええ。そろそろ戻る頃だけど‥‥」
「ゆーちゃん、なえなえー」
噂をすれば。沙那が病室へ入ってきた。
「おかえりなさい」
「おかえり沙那」
「うん。それで、こっちでのエージェントたちが妹さんの家に侵入したわ」
「空き巣か?」
「なえなえ近いけど、ちょっと違う。引っ掻き回しただけで退散したから、恐らく妹さんの命か亡骸目当て」
「でしょうね。陣痛でショック死ならばそれで良く、生きていても身柄確保の予定だったのでしょう」
「それで、どこへ向かった?」
「病院とは違う方向へ居なくなったけど、遅かれ早かれここに来るのは間違いない」
「ここのアサシン共と戦う事になるのか」
「その時は流石に私も参戦する。ゆーちゃんは妹さんをお願い」
「沙那、無理しないでね」
「もとよりゆーちゃんに預けた命、粗末にはしない。ゆーちゃんもなえなえも大事な家族だから、悲しませたくないし」
「沙那‥‥」
「ほら、準備しよう?母子共に守らないとお兄さんの依頼守れない」
「そうだな」
沙那は元気に話を済ませると、再び病室から出て行った。
「沙那は‥‥成長したな」
「そうね‥‥」
‥‥‥‥‥‥。
‥‥‥。
その日の夜。
交代で寝ながら母子共に傍で見守る結城三姉妹。
昼と同じ組み合わせで悠衣が一休み中のある時。
『ん‥‥来たか』
寝たふり中の奈恵は右目だけ開いて感じ取った。
「悠衣」
「‥‥来たのね」
浅い眠りで直ぐに目覚めた悠衣は右手をポケットに突っ込んだ。
「ゆーちゃん?‥‥ああ、来たんだ。りょーかい。多分そっち先だと思うから注意して。こっちは半端で来ると踏んでるから大丈夫だと思うけど」
「分かった。終わるまで両方死守よ」
「「了解」」
静かな病院で各々準備を済ませる。
そして。
「‥‥オゥ!」
真っ暗な病室に男性の鈍い悲鳴が響く。
静かに侵入してきた男に奈恵が蹴りで金的を喰らわせたのだ。一応プロテクタも付けてあったのだが、それも紙の様にひん曲げてしまった。
「ウッ!」
後から来た者も悠衣が特製スタンガンを発動させて痙攣、同時に気を失った。
「一気にかかって来なさい」
そして、悠衣の声で危機感を持ったのか、一気になだれ込んできた‥‥。