『結城姉妹(仮)』1-2

ここはとある雑木林。
この一帯は明るく穏やかであった。
そこに、突如人の気配が現れる。

1‥‥、2‥‥、3。

その姿はこの時代と風土とは一応一線を画すが、余り気に留めない程度には流す事のできる服装であった。
悠衣・奈恵・沙那の3人である。
沙那が端末で何か調べている間、奈恵は周囲を警戒し、悠衣は草木に触れて状況を調べていた。

「‥‥とりあえず転送は成功したみたいね」
「ええ。場所も時刻も今回は合致。現場から程近い雑木林に来たわ」
「それで‥‥、ここより太陽から9時方向か」
「ええ。奈恵は早速向かって頂戴。完了したら『港町』の『領事館前』で落ち合いましょう」
「分かった。悠衣と沙那も気をつけてな」
なえなえ行ってらっしゃい!」

奈恵は堅くも穏やかな笑みを漏らし、そして雑木林を歩いて行った。

「さて、私達も行きましょう。沙那は光学迷彩の処理を怠らない様に」
「大丈夫。準備オッケーよ」
「そう。それでは、『現場』へ‥‥」

悠衣と沙那も準備を終えてその場から奈恵とは別方向へ歩き出した。
悠衣の言う『現場』、そこは一体‥‥。


‥‥‥‥‥‥。


‥‥‥。


『現場』となる場所から程近い物影。悠衣と沙那が到着した。

「ここで銃殺されるのね‥‥」
「沙那、気分が悪くなったら出て来なくて大丈夫だからね?仮にも人が撃たれて死ぬところを見る訳だから」
「大丈夫。血はもう慣れたから‥‥」

沙那も最初は頭痛がして吐くくらいにつらかったものだ。実験で生き死にを目の当たりにしてきた悠衣や軍人の奈恵にとっては、人の死に無感情となっていただけに、とりあえず一般経験や精神を持つ沙那の存在は、命に対する感情を2人に再確認させる切欠を与えた。
まあ、結局感情としてはそこまでなのだが、これを期に、悠衣と奈恵は慎重に仕事をこなす様になった。


さて、悠衣と沙那が『現場』に到着した頃、奈恵もまた音も気配も消してターゲットに近付いていた。

『ふむ、奴か』

目視で確認出来る位置に対象を確認。依頼内容と比べて誤りが無い事も確認した。
ターゲットはサイレンサーを付けたショットガンに弾を仕込み、手入れしていた。
服装から欧州のとある地方の者と推察され、この地域の風土とは明らかに一線を画していた。
実はこの者、悠衣達と同じく未来から来た者で、暗殺を家業とする闇の人物であった。
ただ、元の未来に戻りエージェントと依頼主から料金を倍せしめた挙げ句闇討ちした経緯から、しばらくした後に実績を積んだ悠衣へ依頼が舞い込んだのであった。
ターゲットの暗殺対象は歴史上どうしても狙撃を実行させなければならない。しかし、奈恵の暗殺対象は元より闇の世界の住人である為、歴史的不都合が起きない。
よって、今回はその暗殺遂行を見届けつつも対象を暗殺するという変わった依頼内容なのであった。

『因果応報、か。報復されるとは、奴も残念だな。その後の行動さえ自重していれば、闇に葬られる事も無かっただろうに。まあ、闇に生きる者でも仁義は必要だ』


そろそろ時間である。ターゲットは準備を整え、声も無く狙撃体勢になる。
奈恵も『現場』とターゲットに意識を集中する。
『現場』すぐ近くに居る悠衣と沙那も息を飲んで見守る。


ターゲットの対象である人物が『現場』に現れた。
ターゲットはスコープから対象をロックオン。


ドォン!
カチッ。


銃砲が近くで発し、それに合わせてターゲットも引き金を引いた。対象の目的の部位目掛けて‥‥。