『結城姉妹(仮)』2-2

翌日、予定通り休暇となった奈恵と休みを入れた悠衣と沙那は揃って外出する事になった。
悠衣は流石に白衣を脱ぎ、沙那とお揃いのブレザー(スカートは膝下丈)に厚手のコートを着ていた。沙那はスカートが膝上丈で黒タイツ以外悠衣と揃えている。
奈恵は‥‥白と藍を基調としたゴスロリとでも言うのか、なんとも可愛く。髪が藍色なのでそれに合わせて黒ではなくした模様。いつもの様に、沙那にせがまれたのである。ちなみに沙那から受けた仕事や家事一環の買い物ではロングスカートメイド服を着て外出もしている。


「いつも(メイド服)以上に恥ずかしいな‥‥」
なえなえ可愛い〜」
「似合ってますよ、ふふ」
「悠衣は他人事だと思って‥‥」
「あら、私のこの服装も沙那からお願いされたものですから一緒ですよ」
「そうなのか?てっきり沙那が合わせたとばかり」
なえなえひどい」
「分かった分かった。仕方無いな‥‥」
「やった!」
「やれやれ‥‥」
「ふふ」


小型転送装置で移動しつつ郊外へ出た3人。ここから孤児院や教会を回るのだ。
最初に向かった先は丘の上に建つ教会。
建物が近づくにつれ子供たちの喧騒が聞こえてくる。


「なかなか元気のいいところだな」
「そうね」


正門に到着。門は閉まっている。
「インターホンか」
「そうね」
ピンポーン
悠衣はインターホンを押した。
すると、しばらくして奥から男性と女の子が現れた。


「こんにちは」
「うー」
「こらこら。こんにちは。どうしたのかな?」
今回来たところは初めてで、男性は悠衣らを見学に来た近場の子供と勘違いしていた。見学には違いないが。男性にくっついている女の子は警戒を露わにしている。
「ええ、少し子供たちと触れ合う機会でもと思いまして」
「失礼ですが、皆さんは‥‥」
「はいこれ」
沙那が無愛想に渡した名刺には、『探偵から家政婦まで 結城事務所』とかかれていた。結城事務所は沙那が仕事を受ける時に使う団体名で、基本は郵便を私書箱で受け付ける。名刺にも団体名とキャッチコピー以外では宛先となる私書箱しか書かれていない。
「結城事務所‥‥」
「人捜ししてるの。誰とかは教えられないけど」
「しかし‥‥」
「安心しろ。別に危害を加える気は無い」
「いえ、そうではなく‥‥」
「見た目にとらわれてはいけませんよ、ふふ‥‥」
「う‥‥分かりました。では奥へ案内します」
悠衣の笑っているのか分からない笑みに何かを感じた男性は大人しく案内を決めた。


建物の中を案内される間、女の子はずっと警戒していた。
「ずっとよね」
「そうね」
「邪魔されそう」
「そうかしら?」
「うん」
「ふう‥‥」
沙那が懸念して女の子を見つめる。女の子も時々沙那を不機嫌な表情で見る。
悠衣は小さく溜め息をついた。


とある部屋についた。応接間らしい。
「まずはこちらへ。ミサは外で遊んできなさい」
「やだ。先生と居るの」
「私達は構いませんよ?」
「仕方の無い子で‥‥」
「いえ、一番信頼の置ける人から離れたくない気持ちはよく分かります。私達には両親という存在はもうありませんから」
「え‥‥?」
「では、まさか‥‥」
「ふふ。では、話に入りましょう」
「あ、はい」
虚を突かれた形で男性は悠衣たちをシートに案内し、自身も女の子と一緒に向かいに座った。


「正門前で話した通り、私達は人を捜しています。それに協力して頂ければ特に何も要りません」
「それで、私は何をすれば良いでしょうか」
「特には何も。中で子供たちと触れ合う事ができれば」
「それはつまり、子供たちの中に捜し人は居るという事でしょうか」
「ええ、端的に言えば。居るかも知れませんし居ないかも知れません」
「それは随分と‥‥」
「まあ、仕事柄慣れております。後、ミサちゃんではなさそうです」
「ほっ‥‥」
少し不安げだった女の子‥‥ミサは安心して胸をなで下ろした。
「それに、ただ単に捜して見つかる様な類では無く、実際に触れ合ってみないと分からないものですから‥‥」
「ミサ‥‥と言ったか」
「う、うん‥‥」
ミサは奈恵に驚きつつも頷いた。
「できればその‥‥私達を紹介してくれないか?ミサからならきっと他のみんなとの距離は短くなれると思う」
「う‥‥うん!」
奈恵の言葉にミサは更に驚き、嬉しくなって強く頷いた。
「という訳だが、構わぬか?」
「はい。ミサが心を許したという事はそういう事なのでしょう。ところで‥‥」
男性は許可を出したところで疑問だったであろう、ある事について聞いてみる事にした。
「何でしょう?」
「皆さん、どちらに通われているのでしょうか?」
「‥‥さて?学校なんていつの話でしょうね。そんな遠い昔の事、忘れてしまいましたよ」
「遠い昔‥‥?」
「お主、それ以上問い詰めない方が身の為だ。悠衣はこう見えて短気だからな。何をするか分からん」
「あら、奈恵も言う様になりましたね」
「それはどう見ても怒ってると思うが」
「ふふ、ふふふふふ」
「はいはい。ミサちゃん、ゆーちゃんが怒り爆発しないうちに案内して!」
「う、うん!」
「後はミサちゃんから聞くから、お兄さんありがとねー」
バタバタと応接間を出る悠衣たちとミサ。
「ふう‥‥」
男性は聞けなくて残念になりつつも、聞かなくて良かったと一安心した。